日本液体微粒化学会とは

会長ご挨拶

神戸大学 宋 明良

 蛇口をひねると水が出る.現代社会に不可欠な水供給サービスは,太陽熱,大気の対流,エアロゾル,雲形成,雨の恵み,貯水池建設,水処理,水道配管網など大自然および多くの人々のお陰で成り立っています.その水の流量を極少量まで絞ると,透明で美しい糸状の水柱になり,その下流ではちらちら白く光る波状模様が現れ,最後は液滴列に分裂します.プラトー・レイリーの不安定性によって.レイリーの不安定性とも呼ばれています.これは,小職が約20年前に転職して神戸大学の助手となり,初参加した微粒化シンポジウムで学生に発表してもらった研究テーマです.伝統の長い10分間の質疑応答と夜の技術懇親会では,森吉泰生先生,西田恵哉先生,鈴木孝司先生など多くの方にアドバイスをいただきました.その一つが,噴射される円柱状液体噴流の微粒化の前に,ノズル内キャビテーションを解明する必要性でした.以来20年以上,キャビテーションは私のライフワークの一つになっています.その後も本当に多くの方々にご指導とご支援をいただいたお陰で,今日も研究を続けています.

 ご挨拶が遅れました.この度,創立から33年目を迎える日本液体微粒化学会の第15代会長を仰せつかりました神戸大学の宋明良です.

 本学会は,会員の皆様より会費をいただき,単一産業だけを対象とせず,微粒化や噴霧などをキーワードに多様な産業で活動する方々が集い,シンポジウムという場の提供,論文の査読と学会誌の編集出版,セミナーの開催,学生や若手の支援助成,研究委員会という場の提供,アジアおよび世界の微粒化コミュニティへの窓口など,知識,技術,経験を持つ者とそれらを欲する者をつなぐ様々なサービスを提供しており,それらは会員のWin-Winベースのボランティア活動によって支えられています.この場をお借りして改めてお礼申し上げます.

 この学会は現在大きな岐路にあります.長年主役であった内燃機関が,EV,水素,アンモニア,バイオ燃料などへの転換を一層加速させたため,内燃機関噴霧をテーマとした研究委員会を無償化し,変革を模索し始めました.会員数と予算規模は微減が続き,本学会の長年の課題である法人化移行の目途が立ちません.そこで,本学会と一般社団法人日本エネルギー学会の液体微粒化部会との統合を検討し始める案が昨年度総会で承認されました.日本エネルギー学会は大規模で活発な活動を続ける学会です.液体微粒化部会の活動メンバーの多くは本会会員でもあり,長年シンポジウムとセミナーを共催してきた仲間です.統合のメリットはありますが,サービス低下や作業負荷激増があってはなりません.このかじ取りが小職の会長としての最大の仕事だと考えています.

 統合検討に際して,まずは会員の皆様とともに学会サービスを見つめ直すことが必要と考えています.水道水供給サービスと同様に,全ての学会サービスも予算と会員の人工が不可欠です.サービス毎の必要経費と人工,短期および長期的視点での有用性などを分析し,サービスの取捨選択が必要かも知れません.サービスを提供している会員と享受している会員の声を汲み取ることから始めます.

 私が会長として主に注力したいことは次の3点です.

  1. オープンな意見交換を踏まえた具体的統合検討

     総務部会長の座間淑夫先生を中心に日本エネルギー学会との協議を始めています.途中経過は適宜公表し,会員の皆様が意見や希望を述べ,皆様とともに学会と皆様の将来を考える機会を設けます.

  2. 研究テーマの変革

     ゼロエミッションや地球温暖化対策などへ向けて産業や社会的ニーズの転換が加速しています.本学会もスピーディーな変革が不可欠です.これまでは主に内燃機関の最先端実験・計算環境を持つ限られた大学教員だけが参加できた研究委員会は,オープン参加とし,研究テーマを見直します.シンポジウムでも新しい分野からの参入を歓迎します.

  3. 若手会員の世界進出

     これまでアジアおよび世界の微粒化コミュニティの運営に携わる仕事は数人の理事で担当してきました.世界の微粒化コミュニティを主導してきた日本の本学会は,近年欧州や中国のコミュニティに押され気味です.若手会員の世界参画の機会を増やします.

 さて,冒頭に述べた単純な液糸のレイリーの不安定性.私が転職直後に英語で書かれた本で勉強したその理論はシンプルで美しい!の一言でした.最近ディーゼルおよびガスタービンの複雑な液体燃料微粒化過程を高速度撮影していますが,ケルビン・ヘルムホルツの不安定性,レイリー・テイラーの不安定性,プラトー・レイリーの不安定性が見事に捉えられ,その中で様々な未知の液体微粒化過程を学生達が発見する感動を,教員として共有できることは何よりの喜びです.その実現に不可欠な知識と経験などを与えてくれた本学会の皆様および本学会を通じて友人となった世界中の仲間に改めて感謝申し上げるとともに,これから私の仲間として,そしてライバルとして一層ご活躍される会員の皆様の未来のために,それをサポートする本学会の明日を見つめ直す2年間にしたいと考えています.

 繰り返しますが,学会は会員間でお互いにサービスと情報を提供し合う場です.どのようなサービスを期待し,提供できるのか教えてください.その上で,組織形態にかかわらず,皆様にとって短期的にも長期的にも最大のパフォーマンスを得られる組織とサービスを模索します.微粒化シンポジウムの特長は長い質疑応答時間と歯に衣着せぬ意見交換だと思っています.本学会の運営と明日についても忌憚ないご意見とご支援をよろしくお願いします.

2023-24年度 日本液体微粒化学会 会長・副会長・部会長・会長直属委員会・監査(敬称略)

会長
宋 明良(神戸大学)
副会長
壹岐典彦(産総研)
田中康恵(日本カノマックス)
顧問
新井雅隆(元群馬大学)
事務局長
近藤 健(学術出版印刷)
総務部会部会長
座間淑夫(群馬大学)
出版部会部会長
斎藤寛泰(芝浦工業大学)
広報部会部会長
大嶋元啓(富山県立大学)
事業部会部会長
瀬尾健彦(山口大学)
研究部会部会長
小橋好充(岡山大学)
国際部会部会長
林 潤(京都大学)
棚沢賞管理委員会委員長
永井伸樹(元東北大学)
廣安賞管理委員会委員長
西田恵哉(元広島大学)
監査
森吉泰生(千葉大学)
赤松史光(大阪大学)